経営者、会計侮るべからず --書評-- 稲盛和夫の実学

京セラ創業者稲盛さんの経営における会計論を述べた本。

とても薄い本だったが思った以上内容が濃くてよかった。

稲盛和夫の実学―経営と会計

稲盛和夫の実学―経営と会計

 

 リクルートの江守さんの本にあった、社内に独立性の高いプロフィットセンターをいくつも立て権限委譲する、という思想に共通するところが多かった。

会計は、権限委譲に応じて発生する責任を明確にするためのツールとして非常に大事だと感じた。

有名な言葉だけど「値決めは経営」の話は素晴らしい。いくらで売るかもそうだけど、いくらで買うか、も同じくらい重要。製造だけでなく、サービス業・金融業にも通ずる。

引用: p37

商売というのは、値段を安くすれば誰でも売れる。それでは経営はできない。お客様が納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段。それよりも低かったらいくらでも注文は取れるが、それ以上高ければ注文が逃げるという、このギリギリの一点で注文を取るようにしなければならない。

薄利多売にするか、高付加価値戦略にするか、もビジネスモデルそのものに関わる。

 

あとは、7つの会計の重要な考えごとに章立てされている。

  1. キャッシュベースの経営
  2. 一対一対応
  3. 筋肉質
  4. 完璧主義
  5. ダブルチェック
  6. 採算向上
  7. ガラス張りの経営

キャッシュベースの経営

現在は、キャッシュフロー計算書が浸透しているから当たり前のようなこともあるが、当時はそこまで一般的ではなかっただろう。

勘定合って銭足らず、にならないようキャッシュフローを増やす経営をする。また、キャッシュフローに余裕があると、「土俵の真ん中で相撲が取れる」余裕ができるということ。

一対一対応

取引に対し必ず伝票を同タイミングで割り当てること。メーカーの経理を詳しくないのだが、例として挙げられていたのは、米国法人の話で、

  1. 日本からの船荷(製品)が届く。
  2. 客の要請で製品を渡す。売り上げ伝票もきる。←ここで売り上げ計上
  3. 一方、出荷請求書類である「船積書類」は一週間遅れで届く。ここで仕入れ伝票きる。←ここで仕入れコスト計上

となっている場合、2の段階で仕入れなしで売り上げだけ計上されているので、大きく利益が上がって見える一方、3でコストを計上すると大きく損失がでるように見えてしまう、という問題が発生する。

これに対し、

  • 仕入れた段階で、仕入れ伝票をきり買掛金を計上し、
  • 船積書類が届いたときに、仕入れ伝票と照合し買掛金を支払い債務に切り替える。

とすることで実態を反映した会計処理にしたとのこと。間違った数字に基づいて経営すると危ない。

筋肉質

こんな本もあるがそういうわけではなく、経営を筋肉質(高収益性)にしましょう、という話。

  • 中古を使う。
  • 設備は最新かどうかではなく生産性で判断する。
  • 必要な分を必要な時に買う(大量ディスカウントに応じない)。
  • 予算制は、経費は計画通り消費されるが売り上げが伴わない。稟議制が好ましい。
  • 固定費は、増やさない、削減するを意識しないと自然と増加する。

など、かなり同意することが多かった。

採算向上

独立したプロフィットセンターは、会社内の他部門との連携が滞る可能性が出てくるが、これを解消するための仕組みがいくつか紹介されている。

  • 部門間の管理会計(総生産 = 社外売上 + 社内売上 - 社内購入)で部門間の収支をモニタリングする。
  • 管理会計で取引を明瞭にすることで社内取引の値段も市場原理を働かせることができる。
  • 標準原価法ではなく売価還元原価法を使う。

 

会計ってほんとよくできてるといつも思う。稲盛さんくらい経営のツールとして会計を活用できる経営者は素晴らしい。